夢想奇譚
1,“灰避行はいひこう



これは眠った時に見た夢の話。

私と連れは何者かから逃げていた。
“何者”と書いたが、実際は形のない
迫り来る恐怖の塊の様なものであったが
私たちは何故かまるで誰かに追われているような気がしたのだ。
知っている街からいつの間にか知らない街の商店街に入り
後ろを気にしながら私たちは逃げ続けた。
時には狭く薄暗い路地裏に身を潜めたり、
時にはいちかばちか挑発的に戦おうとしたりして
ようやくの思いで、家族のいる安息の地に着いた。
私は安堵の気持ちで胸がいっぱいだった。
すると連れが目の前の街路樹の生茂る道路へ走り出し、
「じゃぁね。」と言って笑顔で手を振った。
私はその時、初めて連れの顔を見て驚いた。
彼とも彼女ともわからないが
連れは私の顔をしていたのだ。




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