燈眩郷とうげんきょう


秋の夜の郷愁に誘われてベランダから外を眺めてみる。
空は紺碧の洋墨に染まり、薄い檸檬色の月をワンポイントにして飾っていた。
夜空を飛行機が赤いサーチライトの尾を引いて飛んでゆく。
目線を少し下にずらすと、点々と家々の灯が見える。
マンションなんかは特に壮麗だ。


遠くの山に宝石箱をひっくり返したかのような
イルミネーションの洪水をみつけた。
―――ルナパァクの光だろう。
ルビィの赤、ぺリドットの黄緑、トパーズの橙、アクアマリンの水、真珠の乳白…。
その幻想的な美しさは内に溜めていた鬱憤を
晴らすのに十分であった。

そういえば数年前の孤独な秋の夜もぼんやりと
この光景を眺めていた気がする。
あの時も優しく温かい光で悲しみにうちひしがれた私の心を
癒して呉れて有難う。
この光が永遠に煌き続けることを
そっと祈った。





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