闇に潜む啼き声


何時も乗る地下鉄メトロの車内で
赤ン坊の泣き声が聴こえた。
寝ていた私は近くの席に赤ン坊を
連れた人が座ったのかと思い、
そのまま睛を閉じて眠り続ける。

Õgyah,Õgyah,Õgyah,,,

電車の加速と地下鉄メトロ内を切る風の音に
混じって、絶え間なく聴こえる。
…いい加減、耳障りだ。

Õgyah,Õgyah,Õgyah,,,

何だか近所の太ったデブ猫の
啼き声にも聴こえなくもない。
プラスティックを引っ掻いた様な響きを持つ
その声に歯がういてくる。
遂に我慢出来なくなって目を開けてみると、
其処には赤ン坊の姿などない。
まして太ったデブ猫の姿などない。
私は狐につままれた心持ちになった。
それでも、

Õgyah,Õgyah,Õgyah,,,

私は釈然としない気持ちで正面の窓に目を向けた。
窓の外には何処までも続きそうな仄暗い闇。
闇は常に秘密を隠し持っている。
正体がわからない声相手に
文句のつけようがないので、
私は再び眠ることにした。
車体は規則正しい揺れと、微かな電子音を
伴って私たちを運んでゆく。





戻る 次へ
※この素材はArielより戴きました。(加工済み。)