例えばこんなメルヒェン


空に遠く、遠く飛行機の飛ぶ音がしました。
私は必死で上を向いて探したのですが、
虚しく反響するだけで、見つけれませんでした。
その時、私は自転車に乗っていたので、
こんなことを続けていたら、何時か事故でも
起こしそうだと思いました。
川面は眩しい昼の光と、
道路脇に林立する樹木の濃い葉緑を反射し、
さながら印象派の絵のようでした。
紫陽花の花が、その形を留めたまま色だけ抜けて、
ドライフラワァと化していました。
やがて喉を熱い空気が満たしてゆきました。
だけれど、心は少しも満たされず、
あの日のあの場所で感じた、
灼けるような思いにはなりませんでした。
ただ全てが整然とそこにあるだけです。


<何処までも堕ちてゆく陶酔に麻痺して、孵れない。
飛べない翼と憂鬱な爪を、静かに轟かせて。
すべてを道連れに、裂け目から崩れてゆけ。>







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